2024/01/19 16:54
こんにちは、及富の菊地です。
南部鉄器は日本国内だけではなく、海外でも人気があることが知られています。
ただし、今日の世界的な南部鉄器の人気は決して一朝一夕で実現したことではなく、各工房、そして協力者の努力によって実りました。
弊工房は1954年に、5代目及川富之進がアメリカへ輸出を行ったことが記録として残されています。
平成の頃になると、1990年頃よりドイツで行われる展示会へ出品する取り組みが始まりました。
海外の展示会への参加により、すぐに人気が出たかと言えばそんなことはまったくなく、苦戦したと聞いています。
その理由として、鉄瓶を必要とする文化そのものや、理解が浸透していなかったこと。
そして、日本から商品を持ち込んだだけで、はい、取引成立とはならない つまりはビジネスパートナーとして信頼関係を気付けるかどうかをたった1回出展しただけでは叶えることは難しかったということです。
大きな変化が訪れたのは海外での出展を始めて10年目にさしかかろうとした時だと聞いています。
1番最初に、人気の出た鉄器は、湯沸かしのための鉄瓶ではなく、ホーロー加工をしたティーポットでした。
主にフランスを中心に、紅茶を飲む文化圏での人気を獲得しました。
及富のラインナップの中で最も注目を集めたものが「ひさご」そして「蜻蛉」です。
「ひさご」
「蜻蛉」
※この二つの鉄器は現在、ホーロー加工ではなく湯沸かし用の鉄瓶として製作しています。
世界において注目を集めるきっかけとなった「ひさご」と「蜻蛉」、容量、シルエットは同じですが、模様が違うものです。
国によってお客さんの好みの違いがはっきり分かれたものになったのは大変興味深いです。
「ひさご」「蜻蛉」はそれぞれ、アメリカ、フランスの2か国で人気が分かれました。
ここでクイズです。どちらの鉄器のデザインがどちらの国で好まれたでしょう?
正解は
「ひさご」はフランス
「蜻蛉」はアメリカ
でそれぞれ人気が分かれたのです。
なぜ、そうなったのか?はいまだにこれだ!という答えは見つかっていないのですが、20年、30年経過した今でもその傾向が変わらないのでなにがしか心を打つものがあるのでしょうね。
私たちはたくさんの種類の鉄瓶を作ってきましたが、「ひさご」ははじめに製作されてから50年以上経過しています。
もちろんその当時、フランスの人に人気が出るだろうな?と考えて作ったわけではないのです。
普遍的に愛され続けるもの、その原点について考えると、一人の製作者の中にあるテーマや、美意識、思いや願いといったものが紡ぎあげたものではないのかな?と私は考えています。
ひさご、蜻蛉に限らずですが、鉄瓶の模様には一環しておめでたい吉祥紋様が採用されてきました。つまりは、使い手の幸せを祈るということが続けられています。
その願いが、こうして国を越えて伝わっていくのは大変嬉しいことです。
話をまた戻しましょう。
鉄器の需要は海外において、ティーポット(急須)として愛され始めたのが分かりました。湯沸かしの鉄瓶はと言うと、我々作り手側としても使用した時の錆びについてのネガティブなイメージを払拭した上で伝えることは難しいのではないかと考えてきました。
そこに大きな転換期が2010年代に訪れます。
中国における鉄瓶ブームが始まります。中国においてお茶は大切なコミュニケーションです。
美術品としても価値がある、湯沸かしの道具として鉄瓶に注目が集まりました。中国茶の雑誌において、南部鉄器の連載記事が組まれ、製法や、鑑定の方法についてまで詳しく紹介されました。
こうして、輸出をしていた鉄器=急須というイメージが定着していた海外においてようやく湯沸かしの道具としての鉄器が広く愛されるようになりました。
ただし、この中国における鉄瓶ブームは長く継続したわけではありませんでした。
2017年頃をピークに、落ち着きを見せ始めます。そして、同時進行で南部鉄器の模倣品が大量発生をはじめます。
さらに、2020年コロナ禍のために物流がとまり、我々としても輸出することが困難になったタイミングで、何が起きたかというと模倣品が日本のamazonなどで南部鉄器と称され売られ始めるという事態が発生しました。
これをうけ、私たちは悪質な販売が蔓延していることに注意喚起をするとともに、さまざまな対策を考えましたが、
そもそも何を届けるのが私たちの使命なのか?と立ち返り、海外向けのオンラインショップを立ち上げるに至りました。
海外のお客様から「本物の鉄瓶が欲しいけど、どこで本物が買えるのかわからない」とメッセージをいただいたことも、私たちの心を奮い立たせてくれました。
2022年にスタートした海外向けのオンラインショップ。立ち上げ当初、私たちは中国とフランスのお客さんからたくさんご注文をいただくのではないか?と想像していました。その理由は、先述した通り、フランスと中国において人気を博したという経験をもとにしていました。
ところが、想像に反して最もご注文をいただいた国はアメリカです。ついで、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、インド、アラブなどなど、いままで私たちが直接輸出をできなかった国の、個人のお客様一人一人にお届けできるようになったのです。
英語での説明、サポートがあり、本物を安心して買うことができると喜びの声をいただくようになりました。
日本茶を日常的に嗜まれている方たちが多く、近年世界中において日本茶、抹茶が見直されていることにも気付きます。
味そのものや、健康的ということだけではなく、静かな時間を楽しむ精神性についての関心も高まっていると教えてくれました。
お客様からいただいたレビューを最後に紹介します。
・This is a beautiful iron kettle! The craftmanship of the kettle and the customer service was amazing. Highly recommend working with Oitomi!
・Not only is it a gorgeous kettle but it’s a work of art. Extremely satisfied with the outcome, delivery, and craftsmanship put into the kettle.
・Amazing service. USA and Japan friends forever!!
・We love our new tea kettle. Tea is a part of our everyday lives so we were keen on finding a kettle that would fit into this routine. This kettle is not only beautiful and rings with the craftsmanship of its maker, but also the perfect capacity for our needs. We are grateful to have access to some of Japan's traditions from abroad through Oitomi and also very much appreciated the prompt and friendly customer service from them during the process of finding and purchasing a kettle. Thank you!
参照:oitomi.com
ライター:菊地海人
▼プロフィール
及富の8代目の長男としてうまれ、2016年より家業を継ぐために修行開始
商品企画、デザイン、製造に関わりながら、技術を伝えるだけではなくお客さんにとってよりよい伝え方があるのではないかな?とSNSやオンラインショップの取り組みを2019年から本格始動
国内外で南部鉄器の悪質な海外製の模倣品や、詐欺が大量に出回っていることをうけ、2021年より海外向けのオンラインショップを開始
鉄瓶を通して、世界を沸かすをモットーに日夜試行錯誤しております。